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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2735号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

四ところで、控訴人は、昭和五四年三月二六日被控訴人らに対し、本件各建物について賃貸借契約の終了を理由とする明渡請求の本訴を提起し維持しているから、これにより継続して右賃貸借契約の解約申入をしているものと認めることができる。

そこで、次に、右解約申入につき、前認定二の事実関係に基づいて正当事由の有無を検討する。

1 元来市街地再開発促進区域は、高度利用地区のうち特に計画的かつ速やかに再開発を必要とする区域について、民間による再開発を促進するため都市計画に定められるものであつて(法七条一項)、その指定があつた本件において、当該区域内の借地権者である控訴人は、都市計画の目的を達すべく再開発実施の努力義務を課されるものであり、(法七条の二第一項)、当該区域指定後五年以内に再開発がなされないときは、日立市において原則として地元権利者に代り再開発事業を施行することとされるのである(同二項)。

2 控訴人は、個人施行者として本件再開発事業を施行するために県知事の認可を必要とし(法七条の九第一項)、右認可を受けるためには、事業計画につき借家権者である被控訴人らの同意を得なければならない(法七条の一三第一項)。したがつて、右同意が得られないときは、控訴人による再開発事業の施行は不能となり、本件市街地再開発計画は、前記促進区域の指定までありながら頓挫せざるをえないこととなる。

これに比し、被控訴人らは、右同意を与えても、その借家権は権利変換手続によつて保護されるのを原則とし(法七七条五項・八八条五項)、権利変換を希望しない場合は金銭補償を受けることができる(法七一条三項・九一条一項)。本件市街地再開発につき、両者の間には右のような立場の相異があり、このことを考慮する必要がある。

この点に関し、被控訴人らは、都市再開発法による市街地再開発の必要をもつて、借家法による解約の正当事由に代置することは許されない、と主張するが、後者の正当事由の一要素として前者の必要性を斟酌することを妨げるものではなく、要は建物明渡によつて蒙る賃貸人及び賃借人双方の利害得失の比較に帰着する。換言すれば、地域開発のため木造低層の建物の除却が要請される場合(都市再開発法の適用以前の問題である。)に、そのことにより立退を余儀なくされる借家人の蒙る不利益が受忍しうべきもの(損害の補填される場合を含めて)であるときは、解約の正当事由を肯認しうるものである。

3 ところで、被控訴人らの生活状況は、前認定(二4)のとおりであつて、同人らは、いずれも本件各建物における営業ないし住居のみで生計を維持しているものではない。その故か、被控訴人らは、前認定(二3)のとおり本訴提起前に、控訴人が提案した新設予定の商業ビルないし飲食店ビルのテナントとなることを断り、金銭補償で解決することを望んだのであるが、立退料の額につき折合がつかず、控訴人の事業計画に同意することを拒んだまま現在に及んでいる。

4 本件五戸建及びこれに隣接する六戸建の各建物の借家人らは、いずれも類似の立場にあるが、前認定(二3)のとおり逐次解決をみ、被控訴人らのみが未解決のまま残されている。

5 以上の諸事情を総合して衡量するに、被控訴人らが本件各建物を明渡すことにより蒙る損害は、専ら経済的なものであるからこれが金銭的に補填されるならば受忍しえない性質のものではない。

右の趣旨において、正当事由を補完するに足る立退料の額を検討するに、本件にあらわれた諸般の事情とくに前記認定(二3)の他の借家人らに対する立退料の金額及び控訴人が本訴提起前被控訴人らに提示した各金額を考慮し、さらに、前示長山の証言(当審)並びに弁論の全趣旨によれば、右各提示額はいずれも不動産鑑定士の意見に従つたものであり、少くとも最終の各提示額は本件各建物の借家権の経済的評価額を下廻るものではないと推認できることも斟酌すると、前記補強条件としての立退料は、被控訴人らにつき各六〇〇万円と認めるのが相当である。

そうすれば、本訴提起による解約の申入は、被控訴人らに対する訴状送達日であること記録上明白な昭和五四年三月二九日から六か月後である同年九月二九日の経過によりその効果が発生し、本件各建物の賃貸借契約は終了したものといわなければならない。

(鰍澤健三 佐藤邦夫 尾方滋)

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